「勉強しなさい」を言わずに子どもが動き出す家の共通点5つ

「勉強しなさい。」
これは、親が言いたくて言っている言葉ではありません。
本当は言いたくない。できるなら言わずに済ませたい。
でも、子どもが動かないと不安になってしまう。
「このままで大丈夫なの?」
「勉強が遅れてしまうんじゃないか…」
「親として何もしないのは無責任な気がする…」
その不安が積み上がった終着点として、
つい口をついて出てしまう言葉が「勉強しなさい」なのです。
しかし、何度言っても状況は変わりません。
むしろ、
- 子どもは反発する
- 親はイライラする
- 親子関係がギクシャクする
- 勉強はますます遠のく
という負のループに入ります。
いったんこの流れに入ってしまうと、
“やる気”は遠ざかる一方です。
でも、安心してください。
子どもが動き出す家庭には、共通した「しくみ」と「空気感」があります。
これは「特別な才能のある子の家」ではなく、
つくることができるものです。
「やる気は“始めてから”出てくる」という大前提
多くの保護者はこう思っています。
「やる気が出たら、勉強する」
でも、教育心理学では逆。
やる気は「勉強を始めてから」生まれる。
例えば、掃除や運動でも同じですよね。
「やりたくないな〜」と思っていても、
いざ1分でも動き始めると…不思議と続いてしまう。
これは脳内でドーパミン(やる気とワクワク感を生む物質)が
「やったあと」ではなく「やり始めてから」出るからです。
なので、子どもに必要なのは「やる気」ではなく、
“動き出すための最初の1歩”です。
大切なのは、家の「しくみ」と「空気感」。
最初の1歩を、自然に踏み出せる家庭は、勉強が日常に溶けています。
子どもが動き出す家の共通点【5つ】
① 生活リズムが安定している
子どもが自分で動けるようになるには、
脳と心が落ち着いていることが必要です。
その土台になるものが 生活リズム。
- 起きる時間
- 寝る時間
- 帰宅〜夕食までの流れ
これが毎日「だいたい同じ」だと、
子どもの脳は “次に何をするか” を迷わなくなります。
迷う回数が少ないほど、
行動はスムーズになります。
逆に、生活が乱れていると……
- 眠い
- 気持ちが不安定
- イライラしやすい
- 集中が続かない
結果、勉強どころではなくなります。
まず「勉強」ではなく、
“生活を整える” から始める家が強いのです。
②ゲームやYouTubeなどの 画面ルールは「最初から決める」
「スマホ・ゲーム・YouTube」を制限することは、
多くの家庭でぶつかる壁です。
画面視聴時間の制限がない家庭は、子どもは自分から勉強することはありません。
親のコントロールがどうしても必要なのです。
ここで大切なのは、途中で奪わない。最初から約束を決める。
「終わりのない画面からの刺激」と「親による強制終了」は、
子どもの脳と心に大きなストレスがかかります。
なので、子どもが画面視聴をし始める前、最初に約束を決めてください。
その約束とは、「終わる時間」と「見終わったら何をするか(次の行動)」です。
- 「〇〇時まで」
- 「タイマーが鳴ったらおしまい」
- 「終わったら本を読む」
という “見えるルール” があれば、
子どもは切り替えができるようになります。
また、このルールは 親子で一緒に作ること がポイント。
親が決めたルールは「管理」。
子どもと決めたルールは「合意」。
この違いが、子どもの行動の安定に直結します。
③ 「机の前に行くまでの動線」が短い家
勉強に必要なのは“広々とした学習机”や“整理整頓された本棚”ではありません。
もちろん、整っているに越したことはないのですが、
それが子どもの「行動のキッカケ」になるわけではないのです。
子どもが勉強を始められるかどうかを左右するのは、
「座ったらすぐに始められる」かどうか。
これだけです。
例えば、こんな小さな工夫で十分です。
- ドリルやプリントは「引き出しの奥」ではなく テーブルの真ん中に出しておく
- 筆箱は 閉じずに開けたまま。シャーペンは出しておく
- 「30分」ではなく “3分だけ” を最初の約束にする
- タイマーは 子ども自身が押す(主体感が生まれる)
これらはどれも、
「始める時に、頭と手が迷わない状態」をつくる工夫です。
人は、行動するときに 「選ぶ」 という工程が多いほど疲れます。
子どもの場合、その負担は大人の数倍です。
例えば、
- 筆箱が閉じている → まず開ける → 鉛筆を探す
- 問題集が棚の奥 → 取りに行く → 座り直す
その間に、
「あ〜めんどくさい」が湧き上がってしまうんです。
つまり、子どもが“動けない”のは、
やる気がないのではなく、
動き出すための手続きが多すぎる だけ。
だからこそ、「迷わず始められる」環境は、子どものやる気スイッチそのもの。
④ 親が“見守る役”。頼まれていない時は教えない
子どもが問題に向き合っているとき、
親ができる一番の支援は、“安心して考えられる空気”をつくること。
「わからなくても大丈夫」
「間違っても大丈夫」
「一緒に考えればいい」
この“安心感”があると、
子どもの脳は 萎縮せずに挑戦 できます。
逆に、親が横からすぐに口を出すと…
- 「正解がすぐに出てこないのは悪いこと」
- 「自分はできない」
- 「どうせまた怒られる」
と感じ、脳は 防御モード(ストレス反応) に入ります。
防御モードになると、記憶・理解・集中はガクッと落ちます。
心理学・教育学では、
「同じ空間で、別々の作業をすること」を、共同行為といいます。
実験では、
隣に安心できる人がいるだけで、
集中が平均1.5~2倍に伸びる という研究もあります。
つまり、親が「教える必要」はないのです。
必要なのは、そばにいること。そして落ち着いていること。
見守ることは、
子どもの自主性を育てるだけではありません。
実は——
親の心と労力も軽くしてくれます。
なぜなら、
- 正解を教えなくていい
- できているか監視しなくていい
- コントロールしようとしなくていい
からです。
親が“がんばらなくていい”というのは、
子どもにとっても、家庭にとっても大きな安心です。
親が力を抜いたとき、子どもは自分の力を使い始める。
⑤終わったあとに「できた」を一緒に味わう
勉強の効果は、終わったあと に生まれます。
「どれくらいできたか」よりも、
「やり切ったあとにどう感じたか」の方が、
次の勉強のエネルギーにつながるからです。
子どもは“できたこと”を大人に認めてもらうことで、
「自分はやれる人なんだ」 という
小さな自信(自己効力感)を積み上げていきます。
この「自己効力感」こそ、
勉強が続く子と続かない子を分ける、最大の要素です。
心理学ではこう定義されています。
自己効力感=「できると思える感覚」
→ 「自分でなんとかできそう」と思える力
これは、才能でも性格でもありません。
家庭で つくることができる力 です。
そしてその種は、
毎日の小さな“できた”の積み重ねで育ちます。
親の声かけポイントはただひとつ。
できた量、できた結果ではなく、「始めたこと」「続けたこと」を認める。
一緒にその瞬間を共有することが大切です。
たとえば—
- 「何をがんばったか見せて」
- 「ここが今日のがんばりポイントだね」
- 「どこが難しかった?どうやって乗り越えた?」
こう聞くことで、
子どもは“自分の努力”に気づきます。
努力に気づけた子は、
「またやってみよう」と思える子になります。
まとめ
子どもが自分から勉強に向かえるようになる家は、
何か特別なことをしているわけではありません。
難しい声かけテクニックでも、教育理論でもない。
もっと、静かで、あたたかくて、日常に溶けているものです。
- 一日の流れがだいたい決まっていること
- 画面(スマホ・ゲーム・YouTube)と “ほどよい距離” があること
- 勉強が「構えるもの」ではなく、「ちょっと手を伸ばせば届くもの」になっていること
- 親が“管理する人”ではなく、“見守る味方”になっていること
- 結果ではなく、今日の“一歩”を一緒に喜べる関係であること
この5つがそろったとき、
子どもは「やらされる」勉強から、
“自分で始められる” 学びへと変わります。
そして、これはどの家庭でも、
今日からつくることができます。
全部を一度にやろうとしなくていい。
大切なのは、“小さくていいから始めること”。
「3分だけ、一緒に座る」たったこれだけでいいのです。
3分で終わってもいい。
途中でやめてもいい。
ぐにゃぐにゃした文字でもいい。
だって、今日の目的は、
- 完璧にやることでも
- たくさん進めることでもなく
「始められた自分」に気づくことだから。
永島瑠美

ナガシマ教育研究所(株式会社塾のナガシマ)」代表。「中学受験ラボ」代表。2015年から横浜市金沢区でナガシマ教育研究所(学習塾・学童保育)を経営。子どもの学習指導と中学受験のプロフェッショナル。指導歴は1000人以上。保育士、児童発達支援士、児童心理カウンセラー、勉強法アドバイザー。
また、教育学の研究者としても活動。東京大学教育学部卒。教育学修士。所属は日本教授学習心理学会、日本教育方法学会等。毎日子どもに向き合う実践的研究者として、現場のリアルと学問をつなぐ。最新の教育学研究の知見を、子育てに活かせる形で、わかりやすくお母さん・お父さんに伝えている。講演実績、イベント主催実績多数。
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