子どもの「できない」の裏には理由がある~発達特性の見つけ方と寄り添い方~

子どもが勉強に向かうとき、うまくいかない場面は誰にでもあります。
しかし、繰り返し同じところでつまずいたり、努力しているように見えるのに前に進みにくい場合、
そこには 「できない理由」 が確実に存在しています。

「気持ちの問題」でもなく、
「やる気が足りない」わけでもありません。

多くの場合、子どもの 脳の特性(情報処理の傾向) が深く関わっています。

この視点に立つことができると、
子どもを「叱る」「急がせる」関わりから、
子どもを「理解する」「支える」関わりへと移行できます。

「できない」は、怠けではなく、脳の使い方の特徴

発達特性とは、
“得意なことと苦手なことの凸凹” のプロファイル のことです。

  • 言葉の理解は得意だが、手先の動きは苦手
  • 発想力が豊かだが、順序立てて整理することが難しい
  • 内容は理解しているのに、書くスピードが追いつかない

このような差は、
単なる「性格」や「やる気」の問題ではなく、
脳内ネットワーク(神経回路)の連結の強い部分・弱い部分が違うこと
によって生まれます。

子ども自身も、
「できないことを、どうにかしたくてもできない」という葛藤を抱えていることが少なくありません。

だからこそ、必要なのは 責めることではなく理解
押し付けることではなく 調整(アジャスト) です。

よく見られる「できない」のサインと背景

見られる行動背景にある可能性親ができる調整(支援)
宿題に取りかかれない「切り替え」や「始めるスイッチ」が入りにくい時間ではなく「最初の行動の小ささ」を設定する(例:3分だけ)
すぐに「わからない」と言う失敗体験の蓄積・自己効力感の低下過程を認める声かけ(例:「考えようとしたところ、よかったね」)
字が雑・書くと疲れやすい手指運動・視覚認知などの領域で負荷が大きい書く量そのものを減らす/読み上げで代替する
気がそれやすい感覚刺激や環境刺激に敏感環境配慮(机よりダイニング・勉強時間の短縮)

行動は、必ず理由を持った“情報”です。
責める対象ではなく、理解の手がかりです。

見極める視点:「なんでできないの?」→「何があればできる?」

「なんでできないの?」
という問いかけは、親としてはごく自然な言葉です。
しかし、子どもの脳にとっては、この言葉が “評価されている” と感じられやすい言い回しです。

評価されていると感じた瞬間、脳は

  • 間違ってはいけない
  • 失敗できない
  • 自分を守らなければならない

という 防御モード(ストレス反応) に入ります。

このとき、思考をつかさどる 前頭前野 の働きは弱まり、
学びに必要な 柔軟な思考・試行錯誤の力 は発揮できなくなります。

そこで有効なのが、
「責める問い」ではなく、「支える問い」に置き換えること」です。

例えば:

  • どこからなら始められそう?
    → 行動のハードルを下げ、スタートのきっかけをつくる
  • 何があるとやりやすい?
    → 子どもの主体性と自己選択感を引き出す
  • 一緒にやる? それとも見ててほしい?
    → 安心感とコントロール感を補う

これらの問いには共通点があります。
「あなたにはできる力がある」という前提で語っていること。

この前提は、子どもの脳にとって非常に重要です。

親の「前提」が、子どもの脳の状態を決める

子どもは、大人が発する言葉だけでなく、
言葉の背後にある“まなざし”を受け取っています。

親が「あなたはできる人だ」と扱う
→ 子どもは「自分はできるかもしれない」と感じる

親が「あなたはできない人だ」と扱う
→ 子どもは「どうせできない」と感じる

ここで動いているのが、心理学でいう自己効力感(self-efficacy) です。

自己効力感とは、「自分はできそうだ」と感じる感覚のことです。

これは、成績や結果とは別に存在します。
むしろ結果よりも 行動を生み出す源 です。

親が「できる前提で」子どもに向き合ったとき、
子どもの脳は

  • 自分を否定する必要がなくなり
  • 失敗を恐れなくなり
  • 小さな挑戦に踏み出せる

という状態に戻ります。これが、挑戦モード(学習モード・成長モード)です。

寄り添い方の実践:親ができる 3つの支援

環境の最適化

「静かな机で勉強できる子」だけが伸びるわけではありません。
脳が安心だと感じる環境は子どもによって異なります。

  • ダイニングで家族の気配があるほうが落ち着く
  • 家族と背中合わせで作業をすると集中が続く(共同行為)
  • タイマーで少しずつ「時間の区切り」をつくる

環境は「がんばり」「精神論」「根性」ではなく、構造で支える領域です。
成長は「挑戦の回数 × 心の余裕」で決まります。

量と手順の“調整”は、支援の基本

「できるまでやらせる」ではなく
“できる形に整える” が発達支援の中心です。

  • 10問 → 3問
  • 1ページ → 半ページ
  • 30分 → 3分×3回

小さな達成は、脳にとって “成功体験の痕跡” となり、
「次もできる」の根拠になります。

できた瞬間の言語化は、自己効力感を育てる

成果より 過程 を言葉にします。

  • 「今、自分から始めたね」
  • 「やり方を工夫したね」
  • 「助けを呼べたのは、いい判断だったよ」

これらは、脳の“自分を肯定する回路”を強化します。

これは「褒める」ではなく、
子どもの脳が自分を理解できるように手伝う行為です。

まとめ:『できない』は、成長の起点である

「できない」と感じる場面は、子どもが今まさに 成長の階段を前にしている というサインです。

階段の前では、
誰でも足が止まります。
それは「弱さ」ではなく、
次の段に進むために、脳が準備をしている時間です。

そして「つまずき」には、必ず理由があります。
子どもが困っているとき、そこには

  • 情報処理の特性
  • 不安や自信の揺らぎ
  • 環境との相性
  • これまでの経験

など、いくつもの背景が重なっています。

理由があるということは、支援ができるということです。
つまずきは、改善できるポイントの“地図”でもあります。

親がその理由に気づけたとき、
子どもは 「もう自分を責めなくていい」 と感じられるようになります。

自分を責める必要がなくなると、
子どもの脳は 防御モードから、成長モードへ切り替わります。

再び、前に進む力が戻ってきます。

子どもは、理解されたときに伸びます。
責められたときではなく。
比べられたときでもなく。

理解とは、甘やかすことではありません。
理解とは、発達のプロセスを見つめる姿勢 です。

今日からできる一歩は、ただひとつ。
子どもの行動を「評価」ではなく「観察」すること。

「できた / できない」ではなく、
「どこで止まっているのか」「何が助けになるのか」を見にいく。

その視点が、
子どもの脳が挑戦を再開するための 安全基地 になります。

永島瑠美

ナガシマ教育研究所(株式会社塾のナガシマ)」代表。「中学受験ラボ」代表。2015年から横浜市金沢区でナガシマ教育研究所(学習塾・学童保育)を経営。子どもの学習指導と中学受験のプロフェッショナル。指導歴は1000人以上。保育士、児童発達支援士、児童心理カウンセラー、勉強法アドバイザー。

また、教育学の研究者としても活動。東京大学教育学部卒。教育学修士。所属は日本教授学習心理学会、日本教育方法学会等。毎日子どもに向き合う実践的研究者として、現場のリアルと学問をつなぐ。最新の教育学研究の知見を、子育てに活かせる形で、わかりやすくお母さん・お父さんに伝えている。講演実績、イベント主催実績多数。

4人の子どもの母として、子育て真っ最中。



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