失敗OK。むしろありがたい。~「うまくいかない日」が育てる力~

子どもが、勉強や生活の中でつまずく日があります。
いつも通りにできるはずのことが、なぜか今日はうまくいかない。
宿題が全然進まない。
気持ちが乗らない。
泣き出してしまう、イライラしてしまう、集中できない。
そして同時に、親である私たちにも、うまく関われない日があります。
「こんな言い方したくなかったのに……」
「今日はもう、優しくする余裕がなかった……」
「私も、できてないじゃん……」
そんな日があると、
私たちはすぐに 「ダメだった日」 と感じてしまいます。
でも実は、そうではありません。
うまくいかない日は、「止まっている日」ではなく、「育っている最中の日」。
これは、子どもにとっても、親にとっても同じです。
失敗は、脳が新しい回路をつくるときの合図
脳は、「もうできること」を繰り返していても成長しません。
脳が発達するときはいつも、
- 初めてのことに出会って戸惑うとき
- 思うようにできずに悩むとき
- 失敗して立ち止まるとき
です。
このとき、脳は 新しい神経回路をつなごうと活発に働きます。
特に、考える力や切り替える力を司る 前頭前野 が強く使われています。
つまり――「うまくいかない」と感じている瞬間こそ、脳は最も育っている。
成長は、スムーズに進むときより、
つまずき、立ち止まるときのほうが大きく動きます。
だから、失敗は“止まる”ではなく
「作業中ランプ」が光っている状態。
「すぐできる子」が伸びるわけではない理由
一般的に「できる子」「要領が良い子」が一見伸びそうに見えます。
けれど、実際に伸び続ける子は、
- 失敗したあとに立て直せる子
- うまくいかなくても諦めない子
- 小さな挑戦を積み重ねられる子
です。子どもの成長に本当に必要なのは、
- 回復力(折れにくさ)
- 挑戦力(やってみようと思える心)
- 継続力(小さな積み重ねをやめない力)
この3つは、どれも 失敗経験があるからこそ育ちます。
失敗ゼロで来た子は、
“初めての挫折”が来たときに立て直しが難しくなることがよくあります。
反対に、
うまくいかなかった日を経験してきた子は、
挑戦に対して 耐性と柔軟性 を持てるようになる。
伸びる子は、「できた子」ではなく、「立ち直れる子」です。
親ができることは、「うまくいかない日を安全にする」こと
つまずいた子は、心の中でこう思っています。
「できないって認めたら、嫌われる?」
「がんばってるのに伝わらない……」
「どうしたらいいのかわからない……」
このときに必要なのは、
正しい答え ではありません。
必要なのは、“悩んで、迷って、つまずいて大丈夫” という空気。
“悩んで、迷って、つまずいて大丈夫” という空気をつくる声かけ例
×「ちゃんとしなさい」
〇「今日はうまく集中できない日かもしれないね」
×「なんでそんなに時間かかるの?」
〇「どこで止まってるか、一緒に確認してみようか」
×「また失敗したの?」
〇「ここまで挑戦したの、ちゃんと見てるよ」
このとき親は、
子どもの「行為」「結果」ではなく「意図」「努力」を拾う。
それが子どもの自己効力感を守り、再起動させます。
そしてここからが、いちばん大切な視点
うまくいかない日は、子どもだけではなく、親にとっての“成長のとき”でもあります。
子どもを育てていると、
「ああ、今日は思っていたようにできなかったな」と感じる日が、本当によく来ます。
- 本当は優しく言いたかったのに、うまく言えなかった日
- 余裕を持ちたいのに、ぐったりしてしまっていた日
- 「大丈夫」と言いたいのに、不安にのみこまれた日
そんな日は、胸がざわざわします。
自己嫌悪や後悔が押し寄せることもあります。
でも、そこで「終わり」ではありません。
むしろここからが始まりです。
心理学では、
人が新しい理解に移るとき、必ず “揺れ” が起こることが知られています。
これは 認知再構成 と呼ばれます。
認知再構成とは?
人が「今までの考え方・捉え方」から
「より広く、しなやかな捉え方」へ変わっていくとき、
その直前には 一時的に不安定になったり、感情が大きく揺れたりすることが多くあります。
つまり、
親が「うまくいかない」と感じている日は、
親の脳が“これまでより広い視野”へと変わろうとしている日。
うまくいかない日の自分は「できなかった自分」ではなく、進化の途中にいる自分 なんです。
親が完璧じゃないことは、欠点ではありません。むしろ 良いこと です。
なぜなら、子どもは「うまくいっている姿」より“うまくいかないところから立ち直る姿” を学ぶからです。
この前提は、子どもの脳にとって非常に重要です。
親が立ち直る姿は、子どもの「回復のモデル」になる
子どもは、親の言葉より、親の生きる姿勢 を見ています。
- うまくいかない日があってもいい
- 感情が崩れる日があってもいい
- それでもまた、整え直して戻れればいい
こうした姿を見た子どもは、
「人は失敗しても立ち直れる」という 人生の前提 を身につけます。
これは、心理学で言う レジリエンス(心の回復力) の土台です。
そしてこれは、家庭という場所でこそ育ちます。
学校ではどうしても「うまくできたか」「正しかったか」が重視されがちです。
だからこそ、家では、違っていていい。
家庭は、成功し続ける場所ではなく、“立ち直る練習” ができる場所。
親が揺れた日も、子どもが揺れた日も、それは“ダメな日”ではなく、
しなやかで強い心が育っている日 なのです。
うまくいかない日は、「悪い日」ではありません。
その日は、家族というチームが成長している日です。
成長は、まっすぐに上へ向かう線ではありません。
一度立ち止まり、考え、振り返り、また進む。
その波の中で、家族は形をつくっていきます。
永島瑠美

ナガシマ教育研究所(株式会社塾のナガシマ)」代表。「中学受験ラボ」代表。2015年から横浜市金沢区でナガシマ教育研究所(学習塾・学童保育)を経営。子どもの学習指導と中学受験のプロフェッショナル。指導歴は1000人以上。保育士、児童発達支援士、児童心理カウンセラー、勉強法アドバイザー。
また、教育学の研究者としても活動。東京大学教育学部卒。教育学修士。所属は日本教授学習心理学会、日本教育方法学会等。毎日子どもに向き合う実践的研究者として、現場のリアルと学問をつなぐ。最新の教育学研究の知見を、子育てに活かせる形で、わかりやすくお母さん・お父さんに伝えている。講演実績、イベント主催実績多数。
4人の子どもの母として、子育て真っ最中。

