子どもが笑っているとき、一番学力が伸びる~笑っているとき、脳では何が起きているのか?〜

リビングで子どもがケラケラ笑いながら遊んでいるとき、
親としてはふと不安になることがあります。
「こんなに笑ってばっかりで、大丈夫なのかな…?」
「勉強、ついていけなくならない?」
「真面目モードに切り替えられる日、来る…?」
これは、ほとんどの保護者が抱くごく自然な心配です。
なぜなら親は、子どもの将来を想っているから。
しかし、ここでひとつ、心強い事実を共有したいのです。
子どもが笑っているとき、脳はもっとも成長しやすい状態になっている。
これは、「楽しいほうがいいよね〜」という感覚論ではありません。
脳科学・認知心理学・発達心理学、すべてが同じ方向を指しています。
笑いは「脳の安全スイッチ」を入れる
子どもが笑っているとき、脳内では
- セロトニン(安心)
- エンドルフィン(幸福感)
- オキシトシン(つながり・信頼)
といった“情緒を安定させる神経伝達物質”が分泌されています。
これらは、脳にとっての「安全信号」です。
そして、脳は 安全だと感じたときにだけ、学びを受け取れる状態になります。
特に、
- 記憶を司る 海馬
- 考える力を司る 前頭前野
は、“安心感があるとき”に機能が高まります。
つまり、笑う → 安心が生まれる → 脳が開く → 学びが入る
この順番で学習は成立します。
逆に、叱られているとき、緊張しているとき、周りと比較されて焦っているとき。
そのとき脳は 防御モード(ストレス反応) に入り、子どもの学びは、ほぼ止まります。
「笑って学ぶ子」は、脳の配線が育っている
子どもの脳は、大人の脳とはちょっと違います。
まだ 神経回路(シナプス)をつないだり、整理したりしている真っ最中なんです。
この“つながり”は、子どもが
- 「おもしろい!」
- 「やってみたい!」
- 「安心していいんだ」
と感じているときに、一気に伸びます。
つまり、脳は「楽しい」と感じているときに、配線工事が進む。
楽しいとき、笑っているときは、心がリラックスしています。
リラックスしていると、
脳は「探していい」「試していい」「間違っても大丈夫」と判断するんです。
その結果、育つのが “思考の柔軟性” です。これが将来、とても大事になります。
柔軟な思考がある子は──
- わからない問題にぶつかっても、とりあえずやってみる → 解決力
- いろんな発想が生まれる → 創造力
- うまくいかなくても気持ちを切り替えられる → 切り替え力
- 失敗しても立て直せる → ストレス耐性
こういう力は、学校のテストより、人生で ずっと必要になる力 です。
笑いは「知識そのもの」を増やすのではなく、
知識が入るための“脳の器”を広げている。
つまり、「笑いは、学力の土台を育てている段階」なのです。
笑いながら学べる家庭には、共通の空気がある
ここは“テクニック”ではありません。
家の中に流れている“空気感”の話です。
そして、その空気は ちょっとした意識 で作れます。
共通点1:完璧を求めない
「間違えたっていいじゃない」「うまくできない日があって当たり前」
そんな “人間らしさにOKを出す空気” がある家です。
宿題をしていて、子どもが漢字を間違えたとします。
×「なんでまた間違えてるの!前も言ったでしょ!」
〇「おっ、今日は のびしろ 多めで素晴らしいねえ〜」
こういう声かけは、脳の緊張を解き、前頭前野(考える力)を守ります。
失敗に寛容な家の子は、
「間違っても大丈夫 → じゃあ、やってみよう」
と挑戦の回数が増えるため、長期的に伸びやすい。
成長は「挑戦の回数 × 心の余裕」で決まります。
共通点2:親が「正しさ」より「つながり」を優先している
勉強の場面で、
多くの親が無意識に“正解”を取りにいってしまいます。
「そうじゃなくて」
「そこ違うよ」
「前はできてたよね?」
これらは 正しい指摘 ですが、
子どもはそれよりも
- 見てもらえているか
- 尊重されているか
- 安心して挑戦していいか
を、感じ取っています。
だから、
「今日ここに座ってくれてうれしい」
「話してくれてありがとう」
「一緒にやろうか」
まずは関係を“つなぐ”ことが、学びの入口。
正しさは、そのあとでいい。
むしろ、つながりがあれば必要なときに必ず届きます。
共通点3:ユーモアがある
ユーモアとは、ふざけることではありません。
状況に ちょっとだけ空気穴を開ける技術 です。
たとえば、子どもが
「わかんな〜い!」と机に突っ伏したとき。
×「ちゃんとやりなさい!」
〇「よし、今日は“机に溶けるスライムごっこ”から始めますか」
緊張がフッとほどけると、
脳は 防御モード → 探索モード に切り替わります。
すると、
- 考える
- 試す
- 工夫する
が、自然に戻ってきます。笑いは、子どもの「動き出すエンジンの再起動」になる。
笑いが起きる家は、
「いつでも、あなたはここにいていいよ」
という 安心のメッセージ が流れている家です。
つまり、笑いは“心が安全な関係”の証拠。
心が安全な場所でしか、人は伸びません。
では、「笑ってばかりで大丈夫?」の答え
大丈夫です。
もっと言えば、笑ってばかりは、とても良いことです。
なぜなら、笑っているときの子どもの身体と脳は
- 肩の力が抜けている
- 呼吸が深くなっている
- 表情筋がゆるんでいる
- 心臓のリズムがゆっくりしている
という “安心状態” にあります。
このとき、脳には酸素と血流がしっかり届き、
思考をつかさどる 前頭前野 が最も働きやすい状態になります。
さらに、笑っているときは、
- 「自分は大丈夫」という 自己肯定感
- 「やってみようかな」という 自発性
- 「ちょっと失敗しても立て直せる」という 回復力
が、自然に育っています。
これらは、テストの点数よりも、
ずっと長い人生を支える 土台となる力 です。
では、勉強でいちばん大事なものは何か?
それは、何回、挑戦できるか、です。
すぐできる子ではなく、
できなくても、またやってみようと思える子が伸びていきます。
- うまくいかなくても、またやる
- 困っても、助けを求められる
- できないときも、自分を嫌いにならない
これは、勉強という“知識”ではなく、心に関わる力です。
だから、笑っている子は、何度でも挑戦できる子。
挑戦できる子は、かならず伸びる子。
笑いは、学ぶ力の源泉です。
まとめ 〜笑っている「今こそ」学力が育っている〜
子どもが笑っている時間は、
一見すると「ただ遊んでいるだけ」のように見えることがあります。
しかし実際には、その瞬間こそ、脳の内部では重要な変化が進んでいます。
- 神経回路(シナプス)が伸び、つながりを強めている
- 思考を柔軟にする前頭前野の働きが活性化している
- 「自分は大丈夫だ」という自己信頼(自己効力感)の基盤が育っている
つまり、笑っている時間は、
勉強と同じくらい、いえ、場合によっては それ以上に「発達に寄与している時間」 です。
勉強という「知識の獲得」は、
こうした 神経回路の器 が整ってはじめて、安定して身につきます。
では、親は日常の中で何ができるのでしょうか。
答えはとてもシンプルです。
子どもが笑っているとき、その場に一緒にいること。
無理に教えようとしなくても構いません。
正しい言葉を探さなくても大丈夫です。
笑い合うという経験そのものが、
「ここは安心して学んでいい場所だ」と脳に刻み込むからです。
この「安心の土台」が、後の学習意欲・挑戦力・集中力を支えていきます。
最後にもう一度、核心を。
笑っていい。
笑わせていい。
笑いながら育てていい。
笑っているとき、子どもの脳は確かに発達しています。
それは感覚ではなく、科学的に説明できる事実です。
あなたの家庭に、今日またひとつ、
あたたかい笑いの時間が積み重なりますように。
永島瑠美

ナガシマ教育研究所(株式会社塾のナガシマ)」代表。「中学受験ラボ」代表。2015年から横浜市金沢区でナガシマ教育研究所(学習塾・学童保育)を経営。子どもの学習指導と中学受験のプロフェッショナル。指導歴は1000人以上。保育士、児童発達支援士、児童心理カウンセラー、勉強法アドバイザー。
また、教育学の研究者としても活動。東京大学教育学部卒。教育学修士。所属は日本教授学習心理学会、日本教育方法学会等。毎日子どもに向き合う実践的研究者として、現場のリアルと学問をつなぐ。最新の教育学研究の知見を、子育てに活かせる形で、わかりやすくお母さん・お父さんに伝えている。講演実績、イベント主催実績多数。
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